公務員(国家公務員、地方公務員、警察官、教員など)の離婚
はじめに
パートナーの職業によって、離婚の際に適用される法律やルールが変わるわけではありません。
ですがパートナーが公務員の場合、特に金銭面で会社員・個人事業主の方とは異なる点がありますので解説します。
婚姻費用・養育費
パートナーが会社員の場合、婚姻費用・養育費について、家庭裁判所の調停や公証役場で作成した公正証書で取り決めをしても、将来にわたり確実に履行してもらえるか、不安が残る場合があります。
それは、パートナーが離婚後に転職した時に、新しい勤務先が不明の場合、婚姻費用・養育費の不払いがあった際の給与差押えを行うために勤務先を調べる必要があるなど、さまざまな手続が必要になるためです。
また、パートナーが個人事業主の場合は、収入をどこから得ているか分からない場合があります。
パートナーがどこから収入を得ているか分からないと、婚姻費用・養育費の不払いがあった場合に、裁判所の強制執行手続を使っての婚姻費用・養育費の確保は非常に難しくなります。
ですが、パートナーが公務員の場合、職業上の地位が安定しており、給与支払者が国や地方公共団体で固定されている場合が多いです。そのため、会社員や個人事業主に比べ、強制執行手続を行うことが可能な場合が多いと思われます。
また、公務員の多くは法律というルールを尊重して従うことに慣れています。そのため、法律に基づいて決まる婚姻費用・養育費についても、受け入れて支払う場合が多いと思われます。
このような理由で、パートナーが公務員の場合、婚姻費用・養育費を公正証書や調停できちんと決めておけば、将来の支払いに不安を持たなくてもよい場合が多いでしょう。
財産分与
パートナーが公務員の場合、財産分与手続を進めるにあたっては次の点に注意した方が良いでしょう。
1 共済組合の貯金
公務員は共済組合に加入しますが、共済組合の貯金は通常の銀行預金より利率が高く、利用している方が多いと思われます。
また、給与からの天引きで積み立てることができるため、パートナーの預貯金口座を全て把握していても、共済組合の貯金があるかは分かりません。
最も簡単に知る方法はパートナーの給与明細を見せてもらい、共済組合の貯金をしていないか確認することです。
ですから、パートナーが公務員の場合、共済組合の貯金がないか、確認した方が良いでしょう。
2 退職金
(1)多額の退職金がある場合が多い
かつては、公務員でも会社員でも、数十年間、1つの役所や会社に勤務した後、定年退職で多額の退職金を支給されることが普通でした。
ところが、近年、民間企業では雇用が流動化し、会社員の場合、転職の都度、退職金を受領していたり、現在の勤務先で定年まで勤務しても在職期間が短く、多額の退職金が見込まれないケースが増えています。
また、民間企業においては給与体系が変わり、給与水準を上げた代わりに退職金制度自体を廃止したり、退職金制度がある会社でも、退職金の一部を「確定拠出型年金」という形で在職中から積み立てさせる制度を導入する企業が増えており、定年退職時には多額の退職一時金がないケースが増えています。
これに対し、公務員の場合、職業上の地位が安定しており、以前と同様、数十年勤務した後、定年で多額の退職一時金を受け取れる方が多いと考えられます。
また、民間企業のように、会社業績の悪化による退職金の大幅カットといったリスクも基本的にはありません。
そのため、特に中高年になってから公務員のパートナーと離婚する場合、退職金から、まとまった額の財産分与を受けられる可能性が高いといえます。
また、公務員の場合、教員や医師のように、以前から女性と男性が同等の待遇で活躍している職種もあります。
中高年の離婚において、夫が会社員の場合、妻が夫に対して財産分与を求めるケースがほとんどですが、妻が公務員の場合、夫から多額の財産分与の請求を受ける可能性があることを考慮する必要があります。
(2)退職金が財産分与の対象になる可能性が高い
一般的に退職金は労働の対価の後払い的性格があると考えられています。結婚後の労働は夫婦の協力があってできるものと考えられますので、婚姻後、別居に至るまでの期間に対応する退職金は財産分与の対象になると考えられます。
ですが、離婚時に定年になっておらず、退職金の支給が将来になる場合、そもそも、退職金が財産分与の対象になるか、争いになるケースがあります。
この問題について、将来に支給を受ける退職金であっても「その支給を受ける高度の蓋然性」がある場合は財産分与の対象とする、という裁判例があります(東京高等裁判所平成10年3月13日決定)。
つまり、退職まで何年以内だったら財産分与の対象になる、といった明確な基準はなく、ケースバイケースで判断されることになります。
ですから、調停や裁判で退職金が財産分与の対象になるか争いになる場合、定年までの年数、会社の規模、会社での地位などに応じて、個別のケースごとに判断していくことになります。
パートナーが会社員の場合で、退職金が財産分与の対象にならないとして争うことがあります。
その場合によくある理由が、退職まで年数があるので、今後の社会経済状況の変化や会社の経営状態の変化により実際に退職金が支給されるか分からない。といったものです。
確かに、退職金から財産分与をすることになるパートナー側からすれば、実際にもらえるか分からない将来の退職金から多額の支払を求められるわけですから、こういった思いは切実なものがあります。
ですが、パートナーが公務員の場合、退職金の金額決定や支給の有無について、経済状況の変化が大きく影響する可能性は低いですし、会社と違い、経営状況という考え方自体がありません。
そのため、パートナーが公務員の場合、将来、実際に退職金が支給されるか分からない、という理由で、財産分与の対象にならないと主張することは難しいでしょう。
慰謝料
会社員の場合、家庭内でDVがあったり、不貞行為があって慰謝料が発生するようなケースでも、私生活上の行為について会社での懲戒処分の対象となる可能性は低いでしょう。
ですが、公務員の中でも、例えば警察官などの公安職の場合、不貞行為のような私生活上の不適切な行動が懲戒処分の対象になったり、昇進等、組織内での扱いに事実上大きく影響する可能性があります。
そのため、例えば不貞慰謝料請求を受けた場合、裁判のような公開で行われる手続を避けて極力交渉で解決する、また、交渉で解決する場合も守秘条項を定めるといった配慮が必要になります。
年金分割
会社員の場合、厚生年金に加入しますが、公務員はかつて共済年金に加入していました。
ですが、平成27年に両制度は一元化され、公務員も厚生年金に加入するようになりました。
調停などで年金分割の請求をする場合は、まず「年金分割のための情報通知書」を、年金記録を保管する機関に請求します。
例えば、パートナーが公務員で、平成27年以前は共済年金、現在は厚生年金に加入している場合、公務員共済組合と年金事務所の2つの機関で年金の記録が管理されています。
ですが、「年金分割のための情報通知書」をいずれかの機関で申請すれば、申請を受けた機関において、共済年金と厚生年金両方の情報を取りまとめて情報通知書が発行されます。
ですので、公務員の方が共済年金に加入していたことによって、「年金分割のための情報通知書」取得の手続はそれほど変わりません。
終わりに
このように、パートナーが公務員の場合、婚姻費用・養育費、財産分与といった主に金銭面で、会社員・個人事業主とは異なる面がいくつもあります。
パートナーが会社員・個人事業主の場合、金銭面で支払いが受けられるか不明確なため、請求自体をあきらめたり、請求した後も譲歩せざるを得なくなるケースがありますが、パートナーが公務員の場合、一般的にそういった心配が少ないといえます。
そのため、経済面も考えると離婚に向けて進みやすいと言えます。
他方、ご自身が公務員で、パートナーから離婚を求められた場合、どのように進めれば有利な解決になるのか、会社員・個人事業主の場合とは考え方が変わってきます。
いずれの場合でも、弁護士に相談・依頼することでより有利な解決ができる可能性が高まりますのでご相談をお勧めします。